思い出の味
小さい頃、祖母の家で食べる梅干しが大好きだった。
赤茶色でしわしわで、すっぱいというより塩辛い梅干しだった。
そういえば最近食べていないと思い、祖母に
「最近は梅干し作ってないの?」
と尋ねてみた。
祖母は一瞬きょとんとした後、
「あれは私のお母さん、ひいおばあちゃんが作ってたんだよ」
と教えてくれた。
曽祖母は20年近く前に亡くなっている。
「ひいおばあちゃんは、漬物やジャムを作るのが本当に上手だったけど、誰も作り方を聞いてないの」
つまり、あの梅干しはもう二度と食べられない。それが祖母の答えだった。
それからしばらく、私はひいおばあちゃんの梅干しに似た味を求めて、スーパーの梅干しコーナーをのぞくのが習慣になった。
けれど、記憶の中のあの梅干しは見当たらない。見た目が似ていていても、食べてみるとやっぱり違う。
そんな私を見て母が声をかけてくれた。
「自分で作ってみたらいいじゃん」
その発想はなかった。
ネットで調べてみると時間はかかるもののそこまで難しいものでもなさそうである。
出来上がりの画像が似ている梅干しから試して、祖母や母に食べてもらい改良を重ねればいい。
そうすれば、いつかひいおばあちゃんの梅干しにたどり着けるかもしれない。
これから先、あの梅干しの味を覚えている人は少しずつ減っていってしまう。
始めるのは早いに越したことはない。
ということで、この夏、人生で初めて梅干しを作りました。
仕上がりが楽しみです。
C・K